東京地方裁判所 平成6年(ワ)5555号 判決
原告
株式会社グーリンキヤブ
被告
平方鉄雄
主文
一 原告の被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故を原因とする損害賠償債務は、金一二万三六〇〇円及びこれに対する平成三年二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 原告の被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故を原因とする損害賠償債務は、存在しないことを確認する。
二 訴訟費用の被告の負担
第二事案の概要
一 事案の概要
本件は、タクシーの運転者が不注意に運転席扉を開けたため、その右側に停車していた、被告が割賦販売により購入した普通乗用自動車の後扉と接触する事故が生じたところ、被告がその損害賠償額は多額であると主張して譲らないため、原告であるタクシー会社が、被告を相手に債務不存在確認訴訟を提起した事案である。
なお、原告は、予備的請求として、「原告の被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故を原因とする損害賠償債務は、金一二万三六〇〇円を超えて存在しないことを確認する。」との請求の趣旨を掲げたが、「第一 請求」に掲げた請求の一部請求に当たるので、予備的請求として記載しなかつた。
二 当事者間に争いのない事実
1 本件事故の発生
別紙交通事故目録に記載のとおり
2 責任原因
本件事故は訴外田賀建夫の過失によるものであり、原告は、同人の雇用者であるから、被告に対し、民法七一五条に基づき、本件事故により被告が受けた損害を賠償すべき義務を負う。
3 被告の立場
被告は、割賦販売により被告車両を買い受けたから、被告車両の物損についての損害賠償債権を有する。
三 争点
本件の争点は被告の損害の額等であるが、これに関する当事者の主張は次のとおりである。
1 原告
(1) 本件事故による被告の損害は、被告車両の修理費用として一二万三六〇〇円と、代車使用料としてトヨタ・クラウンの三ナンバークラス(一日当たり二万八〇〇〇円・消費税抜き)の五日間(被告車両の修理相当期間)のレンタカー料金の一四万四二〇〇円である。
(2) 原告は、被告にトヨタ・クラウンの三ナンバーを日本駐車ビル株式会社から一日当たり二万八〇〇〇円で借り受け、代車として使用させたところ、被告は、使用相当期間五日を超えて一〇日間これを使用したため、原告は二八万八四〇〇円(消費税込み)を支払つた。この金員は、本件事故による損害賠償金に充当されるべきであるから、原告は、二万〇六〇〇円の過払の状態にある。
2 被告
右主張を争う。
第三争点に対する判断
一 甲一ないし四、六、七、八の1ないし3、証人永田祥三郎、同菅野誠喜、前示争いのない事実に弁論の全趣旨を総合すると、
(1) 被告は被告車両であるベントレーの管理を岡島孝明(以下「岡島」という。)に委ねており、岡島は、平成三年二月一三日午後一〇時一〇分ころ東京都港区赤坂三丁目七番先路上で被告車両に乗つていた。原告の従業員であつた田賀建夫は、原告の業務の遂行のため原告車両を走行中、梁禮永運転の普通乗用車に追突されたため、右路上で原告車両から降車しようとして原告車両の運転席扉を開けた際、原告車両の右前に停車中の被告車両の後左扉に原告車両の運転席扉が接触した。このため被告車両の後左扉に傷が生じたが、原告車両の扉にはモールという固いゴム状の部品が装着していたこともあつて、右傷はようやく分かる程度のものであつた。
(2) 事故の二日後に原告の担当者である永田祥三郎は、日本駐車ビル株式会社日駐整備工場の菅野誠喜とともに被告車両を見分し、岡島と本件事故の示談交渉をした。菅野誠喜が被告車両を実際に見て修理費用を査定したところ、前示傷の修理は被告車両の後左扉のペイントとそのための分解で足り、その費用は一二万三六〇〇円、修理期間は五日と見積もられた。しかし、その後、岡島は、永田祥三郎に対し、欧米自動車工業株式会社作成の見積書(甲七)や、アイダイヤモンドモービル株式会社の見積書(甲一)を送付して、さらに示談交渉をしたが、修理費用につき前者の見積書は六〇万円、後者のそれは五九万二二五〇円とされていたため、合意に達しなかつた。
(3) 代車についても示談交渉が持たれ、原告は、日本駐車ビル株式会社から三ナンバーの電話付きトヨタクラウンを一日二万八〇〇〇円の約束で賃借し、これを岡島に引き渡した。しかし、同人は第三者に転貸し、右第三者が事故を起こし、その修理期間も含め、原告は、日本駐車ビル株式会社に右代車のレンタル料として一〇日分・消費税込みで二八万八四〇〇円を支払つた。
以上の事実が認められる。なお、前示欧米自動車工業株式会社作成の見積書は、修理の内訳が記載されておらず、証人永田祥三郎によれば、同社の担当者が岡島の言いなりに記載したことが認められる。また、アイダイヤモンドモービル株式会社の見積書は、被告車両の後扉を分解して、分解した部品をすべて交換することを前提とするものであつて(証人菅野誠喜により認める。)、前示被告車両の被害の状態に比して過大な修理であることが明らかであり、いずれの見積書も採用することができない。
二 右認定事実によれば、本件事故による被告車両の傷の修理に要する費用は一二万三六〇〇円であり、修理期間は五日間と認めるのが相当である。そして、原告が修理必要期間の代車費用(一日当たり二万八〇〇〇円)も本件事故の損害に当たると自認しているところ、前認定のとおり、原告は、日本駐車ビル株式会社からトヨタクラウンを賃借し、被告車両の管理者岡島に引き渡したのであり、代車を現物給付したものと認められ、その分の損害はこれによつて填補されたものと認められる。なお、被告は、本人尋問において、いわゆる評価損が生じるのではないかと供述するが、前認定の損傷の程度では評価損が生じる余地はない。
三 ところで、原告は、代車の現物給付期間が修理必要期間を超えて一〇日及んだことから、超過期間五日分のレンタル料を修理費用に充当すべきことを主張する。しかし、本件の場合は、原告が借主となつて日本駐車ビル株式会社から代車を賃借しているのであつて、同社に対する支払いは、原告の債務の支払いであることから、これをもつて本件不法行為による損害賠償金の支払いと評価することは困難である。もとより、原告は、被告に対し、超過期間のレンタル料については不当利得、あるいは本件の場合は、岡島が第三者に代車を無断転貸したところ事故が生じ、このため原告が超過期間のレンタル料の支払いを余儀なくされたことから、不法行為に基づく損害賠償としてこれを請求し得、当事者間の簡易な決済方法として、超過期間のレンタル料を修理費用に充当する取扱いが考えられなくないが、特段の合意が証拠上認められない以上、超過期間の現物給付をもつて他の費目の賠償金の弁済とみるのは相当でなく、民法五〇九条の趣旨からも右のように解することができない。したがつて、原告の右主張は理由がない。
第四結論
以上の次第であるから、原告の被告に対する本件請求は、原告の被告に対する別紙交通事故目録記載の交通事故を原因とする損害賠償債務が一二万三六〇〇円及びこれに対する本件事故の日である平成三年二月一三日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を超えて存在しないことを確認する限度で理由があるが、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。
(裁判官 南敏文)
(別紙) 交通事故目録
事故発生の日時 平成三年二月一三日午後一〇時一〇分ころ
事故発生の場所 東京都港区赤坂三丁目七番先路上
原告車両 普通乗用車・足立五五け九六九(田賀建夫運転)
被告車両 普通乗用車・品川三四ろ二七八五(車名・ベントレー、岡島孝明運転)。被告が、訴外欧米自動車工業株式会社から、代金完済まで同社に所有権を留保するとの約定で買い受けたもの。
事故の態様 田賀建夫が原告の業務の遂行のため原告車両を走行中、梁禮永運転の普通乗用車に追突されたため、原告車両から降車しようとして原告車両の運転席扉を開けた際、原告車両の右前に停車中の被告車両の後左扉に原告車両の運転席扉が接触した。